両国の国歌が斉唱され、選手たちがグランドに散る。
オールブラックスのメンバーが陣形を作り、歓声と怒号が徐々に高まっていく。
Hakaの始まりを告げる声が高らかに響き、21人の戦士たちが低く応える。
湧き上がるウォークライの高揚感、その威武に立ち向かい、あるいは受け流し、これから始まる闘いの熾烈さに備えようとする相手国。
そんなオールブラックス戦における「伝統の儀式」がこの日、突如として消えた。
事の起こりは昨年のウェールズとのテストマッチ。
Hakaは両国の国歌斉唱後ではなくNZ国歌の後、ウェールズ国歌の前という不自然なタイミングで行われた。
この年はウェールズ対ニュージーランドのテストマッチ開催100周年にあたり、開催国のウェールズからの要請をニュージーランドが「この年限り」という約束で受け入れたものであった。
ところが、今年の10月16日にウェールズから送られてきた進行表には、昨年同様の順序でHakaを行うよう記されていた。
ニュージーランドは愕然とし、彼らの誇りと伝統を守るべく抗議を申し入れる。しかし、マオリ有識者にも質問を出し問題無しとの回答を得ているというウェールズとの話し合いは、平行線を辿る。
結局、交渉は試合直前ま続けられるが(事実それらは、ウェールズの選手達がグランドに姿を現している頃にも続けられていた)、ついにニュージーランドの主張が受け入れられることは無かった。
やむをえず彼らは国歌と国歌の間ではなくグラウンドに姿を現す前に、ロッカールームでHakaを行う。

何も事情を知らされていないカーディフの75,000人の観衆は伝統のHakaが行われないことに大きなブーイングを発し、審判員も試合開始を遅らせて事務局に事情を問い合わせる事態となった。
オールブラックスの代表監督であるGraham Henryは語る。
「Hakaは選手たちのためのものなんだ。ファンや観衆たちのためにではなく、ニュージーランドのラグビーと選手たち自身を奮い立たせるために、あそこでHakaをしたんだ。」
大切な国際試合の緊張感の中で、「いつもと違うことをする」のはそれだけでリスクだ。
常勝チームは、ここ数十年における「非常」事態を、その本質を見失わずに自らを鼓舞することで切り抜けた。
いや、むしろ彼らの行き場の無い怒りは、いつも以上の激しさになってウェールズにぶつけられたとも言えよう。
2006.11.26 Cardiff
Wales 10 - 45 New Zealand
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